NCの日記

孤立気味に生きてきたおっさんの日記です

『ニセモノ師たち』

ニセモノ師たち

ニセモノ師たち

「いい仕事してますねぇ」で有名な中島誠之助さんが書かれた本。
骨董商の世界とそこに出回るニセモノやその周りに広がる人間模様が書かれていました。
“まあのっぴきならない世界っすねコレは!(^_^;)” というのが第一の感想でしたw

中島さんが本文中で言われる「ニセモノ」とは「骨董に精通した人が、ホンモノの条件に則って作った品物」のことです。
テレビ番組とかで出てくる箸にも棒にもかからない偽物のことは「ニセモノ以前のゲテモノ」だとされていました。
プロ同士の取引で騙される、そういうレベルのものが「ニセモノ」だとおっしゃっています。
そして、そういうやりとりの中でプロが騙された場合、悪いのはニセモノを見抜けなかった方であり騙した方は悪くないというのが暗黙の掟なのだとか。

プロの鑑定は骨董そのものの知識はもちろんのこと、その品物を巡るストーリーや持ち込まれてきた話の筋から、その品物を見る前に真贋がわからなければならない。
そして、プロは本物がわかるだけでなくニセモノもちゃんと分かった上で、その両方を上手に操り、商売の材料にしてしまえるノウハウを持っている。
……どうですか?(笑)
株と一緒で素人がうかつに踏み込むとやけどする世界だなと自分は思えてなりません。

中島さんはご自身のことを『叩き上げの商人』だと書かれています。
中島さんご自身は駆け出しの頃、先輩骨董商に騙された経験から決してニセモノは取り扱わないと決めて商売をされてきたようです。
ですが、商品価格の一割を謝礼として支払われるという話である骨董品の仲介を行なった際、仕入れのときに一割ほど値切って安く仕入れることにより実質二割の儲けをはじき出す、ということもされています。
この辺が「商人魂」みたいな話で、相手を貶めるようなことはしないけれど、決してボランティアでやっているわけでもない。
この辺りのバランス感覚というか、相手を一方的に食いものにしないけど、自分の儲けもきちんとはじき出すという姿勢は勉強になりますね。



最近選挙があったもので、珍しく政治に意識がいっていたものですから、この話を知った時、こういうバランス感覚のある人こそ社会の上の方に行ってもらいたいな、とふと思いました。
一般市民レベルならただ正直、ただ善良なだけでも許されるかもしれませんが、外交など一筋縄ではいかない問題も含む社会上部層の人間までそれだと厳しい部分があります。

元ジャーナリスト・上杉隆さんは『外交の目的とは?』という問いに『相手を混乱させたり交渉を長引かせたりしながら自国の譲歩を最小限にし国益を得ること。』と答えておられます。
外交のやりとりは事実だけに基づいてやっているのではなく、あくまで自国の国益を得るためになんらかの主張がされるという側面もあるということ。
上杉さんは他にも『「北方領土問題」が解決しないのはなぜか?』という問いには『北方四島はロシアにとって大きな外交カード。解決しないことが自国の利益になるから。』と答え、『中国や韓国が「靖国参拝」に抗議する理由とは?』という問いには『抗議すること自体が、対日外交の強力なカードになるとわかったから。』と答えておられます。
引用元

上杉隆の40字で答えなさい  〜きわめて非教科書的な「政治と社会の教科書」〜

上杉隆の40字で答えなさい  〜きわめて非教科書的な「政治と社会の教科書」〜

記者クラブというフィルターに通されていない、実態に近いと思われる意見がシンプルに書かれているのでわかりやすいと思います。

どこかで見た意見ですけど、安倍さんや鳩山さんとかは政治家じゃなくてその辺の一公務員くらいの立場であれば、案外みんなに好かれるタイプだったんじゃないかと自分も思います。
一国の舵取り、他国との交渉、のっぴきならない世界だと思います。
そういう世界を任せる人を選ぶときは、ただ善良で正直というだけでは務まらない場合もあって、表と裏両方の世界に精通し、その両方を状況に合わせて上手に使い分けられる、そういうバランス感覚を持っている人の方がいいのかもしれませんね。



まだ現実的に考えると性悪説的発想を捨てきれない部分もあります。
ですが、中島さんは『ニセモノ師たち』のあとがきでこう書かれています。

 といって、筆者はなにもニセモノを肯定するものではけっしてない。社会が円滑に動いていくためのグリースの役目として、それらの影の部分を容認しているのである。
(中略)
 にもかかわらず本書を呈する真意は、世の中の変化として、従来弱き者とされてきた「良識の社会」の到来を予期するからである。
 行政も司法も立法も、それぞれの府において、大衆から寄せられる旧弊の暴かれるを望む声、切なるものがある。金融界しかり、実業界しかり、すべて改革の時節を迎えている。

本文を読む限り、決してきれいごとだけの世界で生きてきたわけではないとお見受けする中島さんが言われたとなると少しびっくりです。
それぞれの分野で世の中の潮流の変化を感じておられる方がいるということなのでしょうか?

性悪説的発想があまり必要なくなる世の中になるというなら自分は歓迎ですね。
商人的なバランス感覚、自分には皆無ですし(笑)
現実をみる限り、まだもう少しの間は表と裏の使い分けが必要な気もしますが。