作家、西尾維新さんの短編小説なのですが…。
あるルールに沿って同じ短編小説が4パターン追加で書かれています。
ルールにはレベル1から3まであり、レベルが上がるほど執筆が難しくなります。
たとえばレベル1の場合、
・最初に短編小説を制限なく執筆
・五十音字46字から、任意の6字を選択
・残った40字を、くじ引きで10字ずつ、4グループに分ける
・その10字を使用しないで最初の短編小説をグループごと4パターン執筆する
・濁音・半濁音・拗音・促音は基本の音と同じ扱い
・2番目で選んだ6字はどのパターンでも使用可
という感じ。
つまり最初にある短編小説を自由に書き、その短編小説をルールに従って4パターン再執筆するという感じです。
短編小説は計3本。
各小説ごとに4パターン追加で書かれていますので、計15本の短編小説が書かれてます。
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普通に短編小説それぞれおもしろいんですが、それをプロの作家さんが「あるルールに従って書きなおすとどうなるのか」というのが非常に参考になりました。
ちなみに、それぞれのルールに沿って書き直された小説は話の流れ同じです。というか、文章そのものがなるべく同じになるように書かれた上で、特定の禁止文字を使用しないで書かれていて、ついでに文体も変えられています。
たとえばレベル1の「妹が同級生を殺したらしく、その死体がベッドの下に隠されていた」という短編小説の冒頭をそれぞれ引用します(ルール見て想像するより読んだ方が早いと思いますw)
・「妹は人殺し!」 制限なし
妹が人を殺したらしい。
証拠はないが死体はある。いや、死体こそがもっとも信頼に足る、文字通りに『動かぬ証拠』であると言えるだろうが――その死体は妹のベッドの下から発見された。
・「妹は殺人犯!」 禁止文字 あおきけちなにぬれろ
僕の妹は殺人犯。
証拠?
不十分だ。
だって妹の部屋のベッドの下で死体が見つかったのだ――この上証拠が必要かい?
・「殺め人間・妹!」 禁止文字 こしすせひまゆらるわ
妹が人間を殺めた。
認めたくはないが、妹の部屋より遺体が発見されたのだ。遺体が発見されただけでは犯罪要件とは言えない、なんて僕にはとても言えない――誰がなんと言おうと。
・「実妹の犯行だ!」 禁止文字 えくさそてとねみより
実妹が人間を殺したのだ。
私はあの娘の寝台の下から死体を発見した。疑いをかけるには十分過ぎる事実だ。普通、死体があれば、大概、他に何もいらないだろう。
・「愚昧、人を殺しし話」 禁止文字 たつのふへほむめもや
我が愚昧、人を殺しけり。
証拠はなし、されど死骸はあり。否、死骸こそ、なにより信頼しうる、字義通りに『動かぬ証拠』なり――死骸は我が愚昧が寝床が陰に見られり。
・・・という感じです。
小説の内容と文章の運びは基本一緒なんだけど、最初の制限なしで書かれたものが、以降、さりげなく特定の文字を抜いて、なおかつついでに文体を変えて書かれています。
文体が違うので普通に読めて特に気にならないのですが、さりげなく特定の文字を使わずにかかれているというのがすごいですね。
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実験小説とでも言えばいいのか、ただ話を作るだけでなく一種の縛りルールに則って話を作るとどうなるのかという意欲作、なんですかね…?
さすがは言葉遊びに定評がある西尾さんだなーと思いました。トリッキーな作品やキャラが多い作家さんならではの一冊かなと。
ちなみに「西尾維新」というのはローマ字表記だと「NISIOISIN」となって、前から読んでも後ろから読んでも「ニシオイシン」になるという回文になってます。
もうここからしてトリッキーさがにじみ出てますよねw とても好きな作家さんです。
自分は今は一応ライターのはしくれをやっているわけですが、「内容・結論・話の流れは同じだけど、前に書いたのとは違う文章を書く」というミッションをこなさないといけないこともあるわけで。
で、似たような話なのにどうすりゃいーのよ…と頭を抱えることもあったんですが、「内容と話の流れは一緒だけど、文章は別物」という短編小説集が詰まったこの一冊を読んで非常に参考になりましたw
人間ってのは明確な縛りルールがあると逆にそれをこなせたりしますからね。
違う文章を書くとき、ただなんとなく違うのを書こう…という漠然とした意識での執筆ではなく、こういう「特定の文字を使わない」というルールを使うことで嫌でも違う表現を使わざるを得ない=違う文章を強制的に作れるということになりますよね。
ついでに文体をガラッと変えれば内容は一緒なのにこうも印象の違う文章になるのかと大変参考になりました。
単純に一読者としてもおもしろかったですけどね!
こんな縛りルールを課しつつもちゃんと日本語として自然な文章を書けるってすごいです・・・
- 作者: 西尾維新
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