NCの日記

孤立気味に生きてきたおっさんの日記です

読書感想『感染症と世界史』

感染症の歴史みたいなのには元から興味があって、コロナ禍が続く昨今の状況もあって読んでみました。

これまであまり触れたことのない分野だったので、感染症と人間の付き合いってホント長いのなっていう小並感が大きかったのだけども、総合してとても面白かったです。

ただの感染症史ではなくて、「感染症と歴史」って視点がよかったですね。歴史好きなので。医師が書いたものではなさそうなので、各病気に関する記述は話半分がいいかもですが、その代わりに歴史的な側面はおもしろかった一冊です。


イラスト図解 感染症と世界史 人類はパンデミックとどう戦ってきたか

感染症の歴史の長さたるや

マラリアや麻疹とかは古代文明時代からあったと聞くと、そんな古くからの由緒正しい病気だったとは、みたいなの一番に思って。

人類の歴史は病気との闘いで、いつ、どの時代にもやっかいな病気ってあったのなと、なんか気が遠くなる思いです。


それはさておき、そんな紀元前何千年前みたいなころの病気を確かめられる今の科学力がすごいわという感想になるんですよね。

エジプトのミイラからマラリア原虫の一部が出てきたとか、骨や肌に残っている跡とか、そういうので当時あったのだろう病気を特定できると。

科学を礼賛しすぎるのはそんなに好きじゃないんだけど、やっぱり科学はすげぇわとは思うんだよね。数千年前に起きていた病気を特定できるとか、普通に魔法じゃんと。


で、現代社会でもありえる病気が古代にもあったと聞くと、当時の社会が急に地続きの場所にあるように感じられてグッときてしまう。

古代ギリシャで書かれた医学書にインフルエンザと思しき症状が載っているとか、病気ってほんと時間も場所も状況も相手も問わない、忖度一切なしの、冷たくて残酷だけど公平な存在なんだよなーって感じがする。


人の営み(歴史)の裏に病気ありなんだなって

世界史のなかで起きたパンデミックの遠因にはシルクロードとかの交易ルートがあって、当時の社会では貴重だった他の文明の品を手に入れられる代わりに、各地域で流行ってる病気まで交換しちゃってたみたいなの。

交易の負の側面みたいなの、昔に習ったのかもだけどまったく覚えてなくて新鮮でした。


そして他の地域から伝わった病気が原因で国が衰えて滅亡の遠因になったとか、当時の人からしたらたまったもんじゃないけど、後世の人間からすると歴史のロマンだなって勝手な感想を持ってしまう。

中世のペスト流行直後とかに生まれた『死の舞踏』(骸骨が踊ってるみたいな絵)、当時の悲惨な状況とか、完全にお手上げっていう当事者たちの気持ちが伝わってきて、なんかすごい印象に残るんですよね。好きなのとはまた違うけど、なんかつい見てしまう。


現代社会との接点がちょくちょく登場するのも面白かったです。ロビンソン・クルーソーの作者はペストが大流行した17世紀のロンドンにいてと同時代の人で当時の記録様子を題材にした作品を残しているとか、顕微鏡の発展でコレラとか結核の菌が発見されるとか。

いまドラマになってるらしい富岡製糸場も、結核がけっこう流行ったとか負の歴史もあるみたいですね。産業革命化のロンドンと同じく、生活空間や労働環境がひたすらすし詰め&過酷で、結核が一度出ると爆発的に感染が増えるみたいな。



21世紀の我らもコロナの渦中にあるわけで、この時代のことも今でいうスペイン風邪みたいな感じで語り継がれて、歴史を変えた出来事として100年後には世界中の中高生が習うんだろうかみたいに思うと、やっぱりロマンを感じてしまうんですよね。

ほんと古代から現代まで病気が絶えたことはなくて、人の営み(歴史)の裏に病気ありなんだなって

病気は武器でもあるという見たくないアレ

古代において、感染症は図らずも特定の地域を守護する一面もあったとか。

何かの流行が一度起こると、免疫があるか、免疫をつけた人だけが生き残るので、その地域の人はあまり感染しないし重症化もしにくいみたいな状況になる。

そこに他の地域の人間が攻め込むと免疫がないので、敵軍だけが次々と病に倒れて死んでいく、みたいな。当時の人たちには魔術や呪いに見えたのでは、という視点は面白かったです。



ここまでは自然発生的なのでまあいいとして、中世の戦争でペストかなんかで死んだ仲間の遺体を、籠城を続ける敵軍の都市に投石機で投げ込んで病気流行らせるとか、もうちょっとこう手心というか、ねぇ?wという感想。

あと、これはなんかで知ってたことですが、アメリカ大陸の先住民をアレするために、天然痘の患者が使った毛布を贈り物として渡してたみたいなの。

大航海時代を迎えるまで両大陸は海で隔てられて交流がなったので、相手方はヨーロッパ側の流行り病に免疫がない人がほとんどで被害甚大みたいな。


細菌兵器っていうと陰謀論くさいけど、いや、人類の歴史の中で感染症は兵器としてとっくに活用済みなんだよなって思うと、そんな突飛な発想でもない気がするんですよね。

唯一撲滅できた天然痘もウイルスは今でも保管されていて、しかも保管先が米と露の2か国っていうのがまた思わせぶりよなーって思ってしまう。


人類の長い闘いの恩恵を自分は受けているのだなと

感染症の歴史を知ると、この世界にはいかに病気の脅威が満ちていて、今の自分が感じる当たり前は医学の進歩によるところが大きいとよくわかりますね。

まあ、自分はしょっちゅう体壊してるタイプなので何不自由なくとはいかないけど、命に関わるとか、厄介な後遺症が出るとか、その類の病気はたしかにスルーできてきたのだろうと。

そうじゃなかったら抵抗力の弱い者から死んでいくわけで、自分はもうこの世にいなかったかもな、みたいな気持ちにはなりますね。



あと、衛生環境の進歩にも支えられてますね。

19世紀のロンドンの、汚水交じりの水を普通に飲料水としても使ってたみたい状況、今じゃ考えられないなぁと。今の感覚でいったら、台所の蛇口から出る水にトイレ流した後の水が普通に混ざってるみたいな状況だもんなぁと。

え、ロンドンさん19世紀でそれスか!?みたいな驚き。そりゃコレラも流行るわって思えるのは、人類の歴史と日本の発展のおかげであって、自分の感性だけから出てくる感想ではないのだろうなって思います。

衛生環境とか衛生観念とかも、先人の遺産を無意識に使わせてもらってるのがよくわかって、ありがたいすねという感想です。

読みやすくて全体的におもしろかった

本書、感染症と世界史という切り口でサクサク話が進んでいく読みやすい一冊でした。

広く浅くでもこれまでに流行った病気とか世界史への影響とかわかって、感覚もちょっと変わりましたね。

アイルランド移民がなんか蔑視されてた理由も病気が絡んでるとか、現代社会との接点もちょこちょこあって雑学としてもおもしろかったし、読んでよかった1冊です。


イラスト図解 感染症と世界史 人類はパンデミックとどう戦ってきたか